はじめまして。KLabVenturesの江口です。
このブログでは、日々様々なベンチャー企業の方とお会いしていく中で、私が考えたことをまとめていけたらと思っています。

さて今回のテーマは、ベンチャー企業のビジョン」についてです。
教科書的な説明では、ビジョンとは、企業としての将来のあるべき姿を記述したものとされています。
曖昧に済まされがちな企業の将来像を言語化することによって、経営陣、従業員、株主等のステークホルダー間で認識の共有を図ることが出来ます。

では、優れたビジョンとは何でしょうか。
こちらについては様々な書籍等で紹介されていますが、私は以下の2点が特徴だと考えています。

・抽象的な表現がなく、平易で明快である
・一人称で語ることができる

例えば、グーグルの「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにする」は有名なビジョンです。
この文章の主語には、社員それぞれが自分の名前を入れることができることが出来ます。
社員が自分の取り組みのベクトルと、グーグルのビジョンの実現のベクトルとを一致させることが容易で、自分自身がどうビジョンに貢献するか、ということがイメージしやすいものとなっています。

さて、あるベンチャー企業の社内会議の1シーン でこのようなものがありました。
それは、「会社の『あるべき姿』の共通認識が曖昧になっているから意思決定に時間がかかっている、それが何か議論しよう」 という意見です。
この会社のビジネスモデルは明瞭で 、今取り組むべき課題もはっきりしています。
しかし、こうした会社でも、社員からはこうした意見が出るものなのかと、驚きました。
これは、目先の「やるべきこと」がはっきりとしている企業でも、あるべき姿が共有されていないと、現場の判断が鈍り、組織としての意思決定スピードの障害となってしまうということなのだと考えられます。

一方で、ビジョンを設けたものの社内に浸透しない、効果がないという意見も良く耳にします。
様々な理由があるのだと考えられますが、ビジョンを作らないと、と頑張ってキャッチコピーを作ってしまい、名刺にコピーしただけ、というケースもままあると思われます。

ベンチャー企業、特に起業後しばらく時間が経過し、売上やそれにかわる経営数値が徐々に伸長し出す時期には、その後の成長を担う様々な人材を採用する必要があります。
具体的な説明なしに考えを共有できていた創業メンバーとは違い、それぞれがその会社で何を実現したいかというモチベーションはそれぞれ異なります。
ビジネスそのものの可能性に魅力を感じたり、サービス自体のファンであったり、ベンチャーという環境そのものに期待をしていたりするわけです。
特に、その会社の発展に大きく貢献してくれる優秀な人材であればあるほど、その会社で何をしたいのかという気持ちの強さはより大きいものであると考えられます。

そうした異分子を巻き込みながら事業の成長にドライブをかけていくためには、通り一遍のキャッチコピーでは上手くいきません。  
ビジョンは必要ですが、特にベンチャーでは安直なビジョン設定では社員の失望を招いてしまう。

結局は、社長や創業メンバー、その他コアメンバーが、言葉と行動で何をしたいのかを繰り返し伝えることでしか、こうした企業でビジョンの共有を行うことは出来ないのだと考えています。
それは、サービスの作り込みにおけるこだわりであったり、ユーザーの反応をどこまで真摯に受け止めるかであったりといった場面から、プライベートでの付き合いも含めて伝わるものかもしれません。
もちろん、その意識の醸成が出来たのちに、より理解を深めるために明文化することは有意義であるでしょう。

ベンチャーキャピタリストとして、起業を計画している段階の方から、ある程度ビジネスモデルを固められている方まで様々な社長とお話し、いろいろなお付き合いをさせていただく機会があります。

あえて、その事業・会社のビジョンについての議論を経ずとも、サービスの緻密な作り込みやビジネスモデルの丁寧な工夫を見ると、どれだけ優れたビジョンを持たれているかは直感的に伝わってくることがあります。
そうすると、投資家という立場を超えて、何か一緒にやりたい、と考えてしまいます。

社員であろうと顧客であろうと投資家であろうと関係のない、
日常的な「巻き込み力」
こそが、パワフルなビジョンの源泉だといえるのかもしれません。