インターンの石塚です。

10/29に弊社とIMJ Fenox社で共同で開催した「事業売却・子会社化の決断」のイベントレポートを掲載いたします。事業の目標の一つの見方として「Exit」がありますが、登壇者の方には株式公開ではなくどのような考えや経緯のもと"売却"または"子会社化"を行ったのかお話いただきました。

 <登壇者>
株式会社ブルーム(売却先:ヤフー株式会社)五十嵐 壮太郎 氏
 主要サービス:ドリパス( https://www.dreampass.jp/ ) 

シンクランチ株式会社(売却先:株式会社Donuts)上村 康太 氏
   主要サービス:ソーシャルランチ( http://www.social-lunch.jp/ )

株式会社日本技芸(売却先:ネットイヤーグループ株式会社)御手洗 大祐 氏
  主要サービス: Rakumo( http://rakumo.gigei.jp/  )

全体
(満員の会場の様子)

■事業売却・子会社化を検討し始めた時期ときっかけは?

五十嵐氏:事業売却は最初全く考えていなかったが、Open Network Labというシードアクセラレーターのプログラムに参画し、そのDemo Dayを機にドリパスに関して興味を持ってもらったことがきっかけ。最初は出資を受ける形で進んでいたが様々な課程を経て、100%売却することになった。

上村氏: もともと売却を目的として会社を設立した。売却までの期限は長くて2年とし、1年経ったタイミングで、その後の動きをどうするかをもう一人の創業者と話し合うことにしていた。サービスの特性上、まずは「目立つ」ことをやりユーザー数を伸ばすことが必要だと考え、その方法の一つとして、KDDIのインキュベーションプログラム「KDDI∞Labo」の第一期に参画することにした。
 
御手洗氏:実は10年前に行っていた事業で1回目の売却を経験していたが、その時はインターネットの市場が未熟で、ファイナンスの知識もなかったので売却する以外選択肢があまりなかった。今回の売却に関しては、そもそも資金調達をしたタイミングからIPOかM&Aどちらの形でもExitできるように事業を設計していた。そこでタイミングよく事業内容をよく理解してくれて且つシナジーの見込める引受先が見つかり、売却を決断した。

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(
左から五十嵐氏、上村氏、御手洗氏)
 
■既存メンバーやユーザーへの報告・説明・対応はどのように行いましたか?

五十嵐氏:当時の会社は7人で音楽バンドのような感覚でやっていたし、今も同じメンバーでドリパス事業をやっている。メンバーによってファイナンスの知識の差はあったが、投資家や事業会社と検討している内容や迷っていることなどは常に共有してきたので、社内に驚きはそれほど無かった。

上村氏:全社員(3人)には売却目的の会社だということをあらかじめ理解してもらっていたので、既存メンバーの説明ということに関しては特に何も無かった。ユーザに関しては運営会社が変わるというメールを送るのみの対応。売却をした後は2か月くらいで『社会人×社会人』から『社会人×学生』というように、ブランド名だけを残してサービスを転換させユーザー自体が入れ替わってしまったので売却したことそのものが影響したということは無かった。

御手洗氏:それなりの社員数がいたので発表した後のざわめきはあったが、事業に集中している社員が多く、大きな騒ぎにはならなかった。引受先の社長に来ていただいたりと社員向けの説明会はしっかりと行った。ユーザに関しては法人向けのサービスだったため事前の通達を行ったり、パートナー企業に関して自ら挨拶にいくなどの対応をした。その際に、”色”がついたということでこれまでのお付き合いの会った一部のお客様に付き合いづらいと言われたこともありました。


■なぜ現在のパートナー(引受先)を選んだのか、その時に重要視した点は何でしょうか。

五十嵐氏:当時自社で抱えていた悩みはトラフィックが少ないということだったので、継続的に大量のトラフィックを送客してくれるヤフーさんは一番良い引き受け先だったと感じた。実際に事業のシナジーも生まれ、人事に関しても同じメンバーで運営できている。

上村氏:創業から1年経ったタイミングで売却先を探しはじめた。共に創業したメンバーが以前DeNAで学生アルバイトをしていて、そこでの上司がDonutsの創業者の一人だった。その縁でそれまで何度か経営の相談などをDonutsの代表としており、ある日そのメンバーがDonutsの創業者とランチに行き、帰ってきたら話が進んでいた。先方からはサービスとチームに興味を持っていただき、会社のフェーズと目指したいところなどを踏まえた上で、タイミングも丁度良かった。売却後はチーム全員でDonutsに入ったが、自分らに求められるそれぞれのポストに割り当てられた。

御手洗氏:子会社化をすることの決め手となったのはお互いの企業文化が近かったという部分。具体的にはサービスを作るということに関して、どういう思いを持って作っているのかという部分がマッチしていた。条件面では既存社員の人事を含めた事業継続性を重視して、交渉や検討は慎重に行った。


■売却・子会社化後のCEOの役割に変化はあったのか、またどういった体制になったのか?

五十嵐氏:ブルームという会社自体は残っているのでそこの代表業務とヤフーでの業務を兼務という状況がある。経営基盤が安定したので、新卒でも業務がこなせるように「業務の標準化」ということも行うようになったし、ヤフーの様々なプロジェクトに携わることも多くなった。

上村氏:引受先の会社に社長室という新しい部署を作ってもらい、アルバイトを含めた全社員がそこに所属する形となった。売却後の社員の人事がどうなるかわからなかったので、先に自分が人事として入社して組織作りを行うという手法もとった。法人は売却とともに無くなり、イチ社員という立場に変わった。

御手洗氏:連結子会社化という形だったので、引受先の会社から役員が派遣された以外に大きな変化はなかった。強いて言うならば引受先のネットイヤーとのシナジーやグループの中でもポジショニングを気にするようになった。


■事業売却・子会社化をやって良かった点・悪かった点を教えてください。

五十嵐氏:悪かった点としては、初めての起業ということもあり、取引に関しての知識不足が起因して交渉がスムーズに進まなかったこと。また、ヤフーに買収されるということはヤフーの競合にあたる企業と仕事が出来なくなるということにもなるため歯がゆい部分もあった。圧倒的に良かったことはヤフーには120種類程度のインターネットサービスがあり、そのUI/UXのノウハウ・ビジネスモデル・事業規模を知ることができた点。

上村氏:売却を目的にしていたにも関わらず売りにくいサービスを作ってしまったことは反省点。今回の件では比較的売却しやすいサービスと、そうでないサービスがあるということがあると感じた。やってみて良かった点は、比較的大きめの企業の一社員となったことで、会社がある程度の規模に成長していくにつれて発生する事項を実際に体験できていること。

御手洗氏:引受先との人的交流を含めネットワークが広がったり、上場企業の経営手法を参考にできる点はとても良かった。悪い点として挙げるのであれば、先ほども述べたが”色”がついたということでこれまでのお付き合いの会った一部のお客様に付き合いづらいと言われたこと。
 

■スタートアップと事業会社が半々の懇親会

当日は約50名の方がお越しいただきましたが、スタートアップ経営者と事業会社の方の参加の割合が多かったのが印象的でした。この場から新しい展開が生まれるといいですね!!

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<所感>
「大企業ではできない、ベンチャーでしかできないことがある。事業売却・子会社化という経験を通じてベンチャーの必要性を感じた。」とおっしゃっていたことが印象的でした。ビジネスコンテストやピッチコンテストで聞くアイデアも、すでに多くのユーザーを獲得できている有名サービスで網羅している特定分野でさらにそれを特化させたサービスというようなアイデアを頻繁に耳にします。果てしてそのようなアイデアはその有名サービスでは絶対に代替できないものなのでしょうか? ベンチャービジネスを考える上では大企業とベンチャーの事業に対するリスク許容度の差をどう突くかということが大事だと感じました。